9-1)空気圧のメカニズム

 経済成長に伴い大量生産時代になり、自動車製造装置に空気圧機器が多用されています。自動化、省力化の波に乗り空気圧機器の利用が一段と進み、現在ではあらゆる産業分野でローコストオートメーションの主要要素として利用されています。

 最も多く利用されているオートメーション(自動化・省力化)機械は、往復動作の単純な動作の組合せをシーケンス制御することで成り立っており、空気圧機器はこれに最適な機器と言えます。また、エネルギー源である空気圧縮機(エアコンプレッサ)はほとんどの工場に設備されており、小形手軽で使いやすく、安価なシステムです。

 

Sponsored Link

空気圧利用の仕方

空気圧を機械エネルギーに変換して利用

 最も多く利用されている方法で、アクチュエータで力に変換して使用します。

・移動、搬送する ⇒ シリンダで一定距離を移動

・力を出す ⇒ シリンダ・グリッパで物をプレス、クランプ

・吸着する ⇒ 真空圧により真空吸着パッドで物を吸着固定

空気の流れを利用

・ノズルから空気を噴き出す ⇒ エアブロー、塗装

・空気流で物を搬送 ⇒ エアシュータ、粉体搬送

空気圧で信号処理

 空気圧のみで信号検出、制御演算処理を行う方法で、「全空気圧制御(オールエア)システム」と呼ばれ防爆環境で使用されます。

Sponsored Link

空気圧システムの長所と短所

空気圧の長所

・人の作業に近い仕事が得意

 使用する圧力は、油圧が40MPa程度なのに対し、高くても1MPa程度なので機器自体が小形軽量になり、指先から人力の100倍程度の力での作業を比較的安価なシステム構成で行えます。

・取扱いが容易

 構造が簡単で取扱いが容易です。このため、圧力調整で力の制御、流量調整で速度制御が簡単にでき、専門知識はそれほど必要ではありません。

・安全でエコ

 エネルギー媒体の原料の空気は、地球上ではほぼ無限にあり、排気した圧縮空気は再び大気となりリユースされます。漏れても火災・汚染・感電の危険がなく、圧縮空気はタンクに蓄積できるため停電時でも一定時間の運転が可能です。過負荷でもオーバー分は空気の圧縮性で吸収しソフトで安全な動作ができます。

空気圧の短所

・エネルギーの変換効率が低い

 圧縮空気を作るためには、主に電気エネルギーを使用し、使用する場合は圧縮空気のエネルギーを力に変換出来るので、エネルギーの変換効率は高くありません。

・圧力伝達は遅い

 空気圧力の伝達速度は、電気の伝わる速度(光速)よりははるかに遅く、さらに空気は圧縮性ですので、正確な位置決め、低速での動作が不得意です。

・空気の質の管理が必要

 システム内の塵埃(ゴミ)の除去はもちろんですが、水蒸気を含んだ大気を圧縮して使用するため、システム内に発生するドレン(水滴)の排出管理が必要です。

電気・油圧システムとの比較

項 目空気圧方式電気方式油圧方式
小~中
(数トン程度)
小~大中~大
低速動作やや困難容易容易
高速動作容易容易やや困難
構造簡単やや複雑やや複雑
保守容易困難やや困難
価格安価やや高価やや高価
位置決め精度やや悪い良い良い
配線・配管やや複雑比較的簡単複雑

Sponsored Link

空気圧力

 空気圧力は、空気圧技術で取り扱う大事な量の一つです。その表示の仕方には、ゲージ圧力と絶対圧力の2種類があり、一般的にはゲージ圧力を使用します。

圧力とは

 圧力(P)とは単位面積あたりの力で、力(F)を面積(A)で除した値です。

    P(Pa)= F(N)/ A(m2

空気圧では実用単位として、MPa(メガパスカル=106Pa)を使用します。真空や低圧の領域ではkPa(キロパスカル)が使用されています。

空気圧力とは

 空気の分子が壁に衝突する力を圧力と言います。空気分子は気体の状態ではエネルギーを持ち、容器の中をそのときの温度に見合った速度でランダムに飛び回ります。この空気分子が容器の壁に衝突したときの力が圧力です。

 この大気を一定の容器に閉じ込めて圧縮すると、空気分子の動き回る範囲が狭くなり衝突する回数が増えるので、圧力が高くなります。容積を1/2にすると、衝突回数が2倍になるので、圧縮前の大気圧に比べて2倍の圧力になります。

大気圧

 大気圧は気象状態によって時々刻々変化し、標高によっても異なります。これでは空気圧技術での取り扱いに不便なので、標高0m(海面)での標準的な圧力を決めて、これを大気圧と呼びます。

  大気圧 = 1013hPa(ヘクトパスカル)=0.1013MPa(メガパスカル)

  (100Pa = 1hPa ヘクトは100を意味します)

ゲージ圧力

 一般的に使われているブルドン形圧力計(圧力ゲージ)は、大気圧を基準(ゼロ)にとった圧力表示なのでこの圧力をゲージ圧力と呼びます。大気圧からプラス側を正圧力、マイナス側は真空圧力といいマイナス表示なので負圧ともいいます。カタログなどの表記はこのゲージ圧力を指しています。

   大気圧 = 0MPa

  絶対真空 = -0.1013MPa

絶対圧力

 絶対圧力は絶対(完全)真空を基準(ゼロ)にとった圧力表示です。

 大気圧  = 0.1013MPa

 絶対真空 = 0MPa

 技術計算では、ゲージ圧力に大気圧を加えて絶対圧力に換算して計算します。

 ゲージ圧力と絶対圧力を区別する必要がある場合は、単位記号”MPa”の後にゲージ圧力の場合は G を絶対圧力の場合は abs を付けて区別します。

 (例)ゲージ圧力:0.5MPa G

    絶対圧力 :0.6013MPa abs

 絶対圧力が0のということは、前述の空気分子の衝突力が生じない状態すなわち空気分子のない状態ということになります。この完全真空と大気圧の間の状態、すなわち大気圧より圧力が低い状態を真空と呼びます。容器から空気を抜けば真空状態になります。

 

なぜ大気圧は体に感じない?

 空気圧力の表示にはゲージ圧力と絶対圧力の二つがあります。大気圧力は絶対圧力では0.103MPaですが、この圧力を私たちは感じていません。また、ゲージ圧力で大気圧はゼロですので私たちの体感と一致しています。これはなぜでしょうか。

大気圧が地表にはかかっていますが、地表にいる私たちの体は圧力でつぶされていません。これはどうしてでしょう。もし、缶詰の缶の中の空気を抜いて真空にすると缶はペシャンコに潰れてしまいます。これは、大気圧は絶対圧力では約0.1MPaの圧力があり、缶の中を真空にすると缶の外側に0.1MPaの圧力がかかってしまうからです。

圧力は地表にのみ働くものでなく、どの部分に対しても垂直に均等に働くことは述べました。例えば、シャボン玉が大気圧でつぶれないのは、シャボン玉の内側と外側には同じ大気圧が入っているからです。同じように、私たちの体の内部、例えば肺や胃には大気圧が吸い込まれており、脳内圧など大気圧に負けないような内圧も体の内部に持っているからです。さらに体自体(細胞)も0.1MPa程度の圧力ではつぶれない強度を持っています。なので、大気圧は体に感じないのです。

空気流量

 空気流量とは、空気圧技術で取り扱う量の一つです。配管や機器を流れる空気の量すなわち流量は、単位時間当たりの大気の状態に換算した体積で表します。

流量の単位

 空気圧では流量の単位は、単位時間に流れる空気の体積で表します。

体積流量:単位時間に流れる空気の体積

   (例)100ℓ/min、10cm3/min、1m3/min

質量流量(マスフロー):単位時間に流れる空気の質量

   (例)10g/min、1.3kg/min
 空気圧技術では直感的にわかりやすい体積流量で表します。

 空気圧で用いる体積の単位は、一般的にℓ、漏れなど量が小さい場合はcm3を用い、量が多い場合はm3を用います。1ℓはSI(国際単位系)では1dm3ですが、空気圧技術では慣用的にℓを使用します。

 単位時間は一般的に1分(min)を使用しますが、この他に秒(s)、時間(h)なども使用します。

体積流量

 同じ1m3の空気量でもゲージ圧力で0.1MPa(≒0.2MPa abs)とゲージ圧力0.3MPa(≒0.4MPa abs)の圧縮空気では、圧縮前の大気の量では2倍の差があります。

 すなわち、圧縮空気は同じ体積でも圧力が異なると質量が異なるので感覚的に同じ量とは言えません。このため空気の流量は、コンプレッサから吸い込む大気の量に換算して表します。

・流量の単位:ℓ/min(ANR)

 換算する大気の状態の基準は、JISで標準参考空気と規定されており、換算した値には単位の後にANRをつけて表します。

 (例)10cm3/min(ANR)、10ℓ/min(ANR)、10m3/min(ANR)

大気状態への換算の仕方

 換算はボイル・シャルルの法則を使って行います。標準参考空気換算空気量をV(ℓ)、圧力をP(MPa)、圧縮状態の体積Vc(ℓ)とすると

V = (P + 0.1)/ 0.1 x Vc

・標準参考空気(JIS B 8393)

 標準参考空気は「温度20℃,絶対圧力0.1MPa,相対湿度65%の湿り空気」と定義されISO8778(Standard reference atmosphere)と同じで世界共通の基準です。

温度の単位

 温度の単位は、一般的にはセルシウス温度℃を使用し、現在はケルビンで表した熱力学温度から273.15を減じたものとなっています。技術計算などではK(ケルビン)を用います。ケルビンはすべての分子運動が停止する絶対零度を0とし水の三重点の熱力学温度までの1/273.15を1ケルビンとしています。

 換算式  K(ケルビン)= C(セルシウス温度)+ 273.15

Sponsored Link

エア(Air)とニューマティクス(Pneumatics)

 空気圧電磁弁はエアバルブ、空気圧シリンダはエアシリンダと呼びます。しかしエアバルブ、エアシリンダはもともと英語です。しかしエア(Air)は空気、大気という意味で、空気圧(空圧)を英訳するとニューマティクス(Pneumatics)となります。

 このPneumaticsは、ギリシャ語で風を意味するpneumatikosに由来しています。ということは、Pneumaticsの形容詞はPneumaticですので、エアバルブはPneumatic valve、エアシリンダはPneumatic cylinderとなります。

ところが、海外の英文カタログや専門誌を見るとPneumatic cylinder、Air cylinderどちらも使われています。エンジニアとしては英訳する場合はPneumaticを使用することを推奨しますが、あまり厳格に使い分けをしなくてもいいようです。また、技術文書ではAirをカタカナ表記する場合は「エア-」でなく「エア」として、長音記号はつけません。

 ちなみに、油圧はoilではなくHydraulicsです。さらに空気圧に油圧、水圧を加え流体圧を扱う技術はフルードパワー(Fluid power)と呼んでいます。

空気の状態変化

ボイル・シャルルの法則

・ボイルの法則

 「空気温度が一定の時、理想気体の体積は圧力に反比例する」これを、ボイルの法則といいます。

 圧力P1、体積V1から圧力P2、体積V2に変化すると次式が成り立ちます。

   P1 x V1 = P2 x V2 = 一定

・シャルル(シャール)の法則

 電子レンジでラップを掛けて温めるとラップがパンパンに膨れます。これは熱(エネルギー)を与えられた空気分子が、元気よく飛び回り、空気が膨張するからです。

 「圧力が一定の時、理想気体の体積は絶対温度に比例する」これを、シャルルの法則、英語読みでシャールの法則と言います。

 体積V1、温度T1から体積V2、温度T2に変化すると次式に成り立ちます。

     V1/T1 = V2/T2 = 一定

・ボイル・シャルルの法則

 この二つの法則をまとめると、ボイル・シャルルの法則になり、次式になります。

   (P x V)/ T = 一定

   P:絶対圧力  V:体積  T:絶対温度

これは次式となり、これを理想気体の状態方程式と言います。

   PV = GRT

   P:絶対圧力  T:絶対温度  V:体積

   G:空気の質量 R:空気のガス定数(287J/kg・K)

空気の状態変化

 実際の空気は、外部と熱や仕事の出入りがあり圧縮、膨張などの変化をします。これをポリトロープ変化と言い、次式が成り立ちます。

  ( P x Vn )/ T = 一定

  P:絶対圧力  V:体積  T:絶対温度

  n:ポリトロープ指数

・等温変化

 温度を一定に保った変化(ボイルの法則)。空気タンクに温度変化がないようにゆっくりと空気を充てん放出させる場合が当てはまります。

・等圧(定圧)変化

 圧力を一定に保った変化(シャルルの法則)です。重りを載せ密封したシリンダの周囲温度が変化し、ピストンが上下に移動する場合に当てはまります。

・等積(定容)変化

 体積を一定に保った変化。密封した空気タンクの周囲温度が変化し内圧が変化する場合があてはまります。

・断熱変化

 周囲との熱のやり取りがない変化です。熱の移動より速く空気が変化する場合で、空気圧縮機で空気を圧縮する場合は断熱圧縮と呼び、ノズルなどから空気が放出(排気)される場合は、断熱膨張と呼びます。

・ポリトロープ変化

 等温変化と断熱変化の中間の変化です。実際の変化はこの変化になります。

Sponsored Link

飽和水蒸気量

 空気中の水蒸気量には限界があります。圧縮空気は多量の水蒸気を含んでおり、温度により含んでおける量が決まっています。温度が下がると水滴(ドレン)を発生させます。

湿り空気と乾き空気

 空気中に気体として存在する水分を水蒸気、水蒸気を含む空気を湿り空気、水蒸気を含まない空気を乾き空気と言います。水蒸気の一定体積の空気中に含まれる水蒸気の上限の量は、温度によってのみ決まっており、これを飽和水蒸気量といいます。

飽和水蒸気量とは

 ある温度では、一定量を超えては水蒸気として存在できなくなります。すなわち水蒸気として飽和してしまう単位体積あたりの水蒸気の量を飽和水蒸気量(g/m3)と言い、この時の水蒸気の分圧を飽和水蒸気圧(Pa)と言います。

 水蒸気は水が気化したものです。水の分子は、お互い引きあって一緒になり液体(水)や固体(氷)になろうとする引力とその時の温度が持っているエネルギーにより自由に動き回ろうとする力が働いています。この両者の力がバランスしている水蒸気量の限界が飽和水蒸気量です。

温度(℃)飽和水蒸気量(g/m3
-700.002789
-500.03821
-300.3385
-102.139
04.847
109.405
2017.31
3030.4
4051.21
5083.08
60130.3

 飽和水蒸気量は、温度によってのみ決まり、温度が高くなると増加し、温度が低くなると減少します。

湿度とは

 湿度とは、空気中の水蒸気の量や空気の湿り具合の程度を表す量です。相対湿度と絶対湿度があります。

・相対湿度

 ある温度での大気中に含まれる水蒸気の量と飽和水蒸気の比を%、すなわち水蒸気の割合を表したものです。一般的に湿度何%と呼んでいるのは、この相対湿度を指しています。

 相対湿度(%) = (湿り空気中の水蒸気量 g/m3 / 飽和水蒸気量 g/m3)x100

・絶対湿度

 単位質量または体積に含まれている水蒸気の質量を表し、重量絶対湿度と容積絶対湿度の二つがあり次式で表され、温度に関係なく表すことができます。

  重量絶対湿度[kg/kg(DA)]=

  (湿り空気中の水蒸気の質量g / 湿り空気中の乾き空気量の質量 g)x100

  容積絶対湿度(g/m3)=

  (湿り空気中の水蒸気の質量 g / 湿り空気中の乾き空気の容積 m3)x100

 

さらなるスキルアップを目指したい方

Amazonの聴く読書 今なら2か月無料で体験