5-3)歯車

 歯車とは、円筒や円錐などの周縁に歯を刻んだものであり、歯と歯を対にしてかみ合わせることにより、回転運動を確実に伝える機械要素です。日本工業規格(JIS)では「歯を順次かみ合わせることによって運動を他に伝え、又は他から受け取るように設計された歯を設けた部品」と定義されています。

 歯車は、かみ合う歯車の大きさを変えることにより、回転数やトルクを変えることが出来るため、いろいろな機械部品に使用されています。

 

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歯車のピッチとモジュール

 歯車は歯を順次かみ合わせることによって運動を他に伝え、または他から受け取るように設計された歯を設けた機械要素です。また、かみ合う2つの歯車の組みのことを歯車対といいます。

 歯車対がかみ合うためには、歯形が等しい形をしており、常に歯車の中心から等しい距離にあるピッチ円上で接触する必要があります。歯車の歯はピッチ円上の円周に沿って等間隔に存在しており、歯と歯の間隔をピッチといいます。また、ピッチ円の直径を歯数で割った値をモジュールといい、歯車対がかみ合うためにはこのモジュールが等しくなければなりません。なお、歯の先端の歯先を結んだ円を歯先円、歯の下端を結んだ円を歯底円といいます。

 モジュールは整数値、または簡単な少数の系列としてⅠ列とⅡ列が規格化されており、できるだけⅠ列のモジュールを用い、必要に応じてⅡ列を用いることとされています。

 Ⅰ列の主なモジュールには、1、1.25、1.5、2、2.5、3、4、5、6、8、10、12などがあります。なお、JISでは、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.8という少数のモジュールがⅠ列に規定されていますが、ISOでは規定されていません。

 モジュールが定義された背景には、円周に関係するものの寸法を表すときに登場する円周率πを加えずに切りの良い数値で歯車の大きさを定義しようとしたことがあります。

 ピッチ円の直径をd(mm)、歯数をz(枚)とすると、モジュールm(mm)、ピッチP(mm)の間には次式が成り立ちます。

  P = πd/z

  m = d/z

  m = p/π

たとえば、ピッチ円直径が120mm、歯数が30の歯車のモジュールは、

 m = d/z より

 m = 120/30 = 4(mm)

となります。

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歯車の各部名称とバックラッシ

 歯車には各部分に名称があります。基準円筒の直線母線に沿って測定した歯車の歯の部分の幅を歯幅、ピッチ円上で測った歯の厚さを歯厚、ピッチ円上で測った歯と隣りの歯との隙間の長さを歯溝の幅といいます。

 さらに、歯車の基準面と歯底円との間の歯の部分を歯元、歯車の基準面と歯先円との間の歯の部分を歯末、歯先円と基準面との間にある歯面を歯先面、歯先円と基準面との間にある歯面を歯末面といいます。

 歯元のたけとはピッチ円半径と歯底円半径との差、歯末のたけとは歯先円半径とピッチ円半径との差のことであり、歯元のたけと歯末のたけの和を全歯たけといいます。

 理論的に正しくかみ合う一組の歯車を設計したとしても、軸に動力を加えて回転させようとすると、歯と歯に隙間がなさすぎてガチガチに動いたりすることがあります。このことは騒音や振動を発生させる原因ともなり、好ましくありません。しかし、これは歯車を製作するときの寸法の誤差や歯車を構成する材料の運転中の膨張、歯車に荷重が加わることによるたわみなどによるものであり、完全になくすことは不可能です。

 そのため、実際の歯車では、互いのピッチ円間にある隙間(これを遊びともいう)であるバックラッシを設けます。バックラッシを設けるには、歯厚を減少させる方法や軸の中心間距離を変化させる方法があります。バックラッシの大きさの範囲は規格で規定されているので、その中から選定します。

 バックラッシは大きくなると騒音が増加してしまいますし、小さすぎると潤滑油がきちんと行き渡らずに歯面が焼きついてしまったり、ピッチングと呼ばれるあばた状のくぼみなどが発生してしまうため、適当な大きさを選定する必要があります。

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歯車のかみ合い率と圧力角

 歯車による伝導では、必ず一対以上の歯がかみ合っています。かみ合う歯車の両作用線の長さをかみ合い長さといい、一組の歯車はこの間かみ合いを続けます。また、歯車の基礎円上で円弧に沿って測定したピッチを法線ピッチといい、これは基礎円の円周を歯数で割った値に等しくなります。さらに、かみ合い長さを法線ピッチで割った値をかみ合い率といい、一組の歯車が常にかみ合うためにはかみ合い率が1以上でなければなりません。かみ合い率が1.6という場合には、かみ合いのはじめと終わりの0.6の間は二組の歯がかみ合っており、残りの0.4の間で一組の歯車がかみ合っていることを表します。

 かみ合い率は、歯車の騒音、振動、強度、回転むらなどに影響を与える重要な要素であり、一般的にかみ合い率の大きい歯車は、音が静かで、振動が少なく、回転をなめらかに伝達し、強度が高いといえます。かみ合い率の値は、1.2~2.5が一般的に用いられています。

 歯形上の任意の点を通る半径線と歯形の接線とのなす角度のことを圧力角といい、一般的にはピッチ点が基準になります。歯車がかみ合うためには、第一にモジュールが等しいことがあげられ、より精密にかみ合うためには、この圧力角も等しい必要があります。

 最も一般的に使われる圧力角は20度であり、標準平歯車にはこの角度が用いられています。昔は14.5度が多く用いられていたため、この角度をはじめとする20度以下の角度が用いられるものもあります。

 なお、アメリカなど長さの単位にインチを用いている国では歯の大きさをモジュール(m)ではなくダイヤメトラルピッチ(DP)で表しています。両者の間には、モジュール(m)=25.4÷ダイヤメトラルピッチ(DP)の関係があります。モジュールは、数が大きくなるほど歯も大きくなりますが、ダイヤメトラルピッチの場合は、逆に数が大きくなるほど歯は小さくなります。

 かみ合い率 ε = 接触孤/円ピッチ = かみ合い/法線ピッチ

 

歯車の種類

 いろいろな種類がある歯車を分類する方法として、歯車軸の関係位置により分類することが最も一般的です。
歯車軸の関係位置の分類として、平行軸・交差軸・食い違い軸の3 つに分類されます。
下表に、歯車の分類と種類、効率を示します。

 この表に示した効率は、歯車の伝動効率であって、軸受損失とか潤滑油をかくはんする損失などは、除外しています。
 平行軸及び交差軸の歯車対のかみ合いは、ほとんど転がりで、相対的な滑りは微小ですから高効率です。
 ねじ歯車及びウォームギヤなどの食違い軸の歯車対は、相対的な滑りによる回転及び動力伝達になりますから、摩擦の影響を大きく受けて他の歯車対に比べて効率が悪くなります。
 歯車の効率は、歯車を正確に取付けたときの値です。特に、かさ歯車の円すい頂点がずれるなど、取付けに不備があると、効率は減少する傾向にあります。

平行軸の歯車

・平歯車

 平歯車は歯すじが軸に対して平行で直線状の歯をもつ一般的な歯車であり、動力伝達用に幅広く用いられています。回転方向と二軸が直角であるため、軸方向に斜めの力がかからないという特長があります。そのため、軸に直交方向のラジアル荷重を受ける一般的な深溝玉軸受を用いれば十分です。また、他の歯車と比較して簡単な形状であるため、製作も容易です。騒音や振動が問題になるような場合には、より滑らかにかみ合う歯車を用います。                                                                                                                                                                                                  

・はすば歯車(ヘリカルギヤ)

 はすば歯車はヘリカルギヤとも呼ばれる、歯すじが軸に対して一定の角度をもったつるまき線をした歯車です。はすば歯車は歯が少しずつかみ合うため、かみ合いに伴う衝撃が少なくなることから、平歯車より騒音や振動が小さくなります。ただし、歯すじが軸に対して傾いているため、軸方向にスラスト力と呼ばれる力がはたらきます。そのため、はすば歯車を使う場合には、スラスト荷重を受けることができるアンギュラ玉軸受や円すいころ軸受を使うか、別にスラスト軸受を使わなければならず、軸受が複雑になります。また、製作も平歯車よりは難しくなりますが、動力伝達用の歯車として、自動車の変速機であるトランスミッションなどに幅広く用いられています。                                                                         

・ラック

 ラックは平歯車を直線上に配置したものであり、比較的小さな歯車であるピニオンとともに用いられます。ラックとピニオンを組み合わせることで、回転運動と直線運動の変換をすることができるため、機械のさまざまなメカニズムに用いられます。なお、歯すじは直線状のすぐばラックや、はすば状のはすばラックがあります。                                                                                                                                                                         

・内歯車(インターナルギヤ)

 内歯車は円筒の内側に歯が切られた歯車であり、インターナルギヤともいい、通常の平歯車などを外歯車として、組み合わせて用いられます。内歯車と外歯車の組み合わせは、減速比を大きくとることができるため、遊星歯車装置などに用いられています。                                                                                                                                                                                                                                                                           

・やまば歯車(ダブルヘリカルギヤ)

 やまば歯車は歯すじが左右逆向きのはすば歯車を組み合わせた歯車であり、ダブルヘリカルギヤとも呼ばれます。二組の歯車のスラスト力が逆向きにはたらくため、スラスト力を打ち消すことができます。これにより、高速でも円滑な回転ができ、強度も大きくなるため、大型の減速装置などに用いられます。ただし、歯車の製作が難しいことが課題となっています。                                                                                                                                                                                                                                                                                                  

交差軸の歯車

・かさ歯車(ベベルギヤ)

 かさ歯車は交わる二軸間に用いられる円すい形の歯車のことであり、互いに交わる位置関係で動力を伝達することができます。二軸が交わる角度は90度が一般的です。かさ歯車という言葉からもわかるように、傘のまわりに歯を並べたような形状をしています。なお、英語ではベベルギヤと呼ばれており、ベベルには斜面や傾斜という意味があります。かさ歯車は歯すじの種類によって、いくつかに分類されます。

・すぐばかさ歯車(ストレートベベル)

 すぐばかさ歯車は歯すじがピッチ円すいの直線と一致する一般的なかさ歯車です。英語ではストレートベベルギヤと呼ばれます。後述するまがりばかさ歯車に比べるとスラスト荷重が小さいという特長があります。産業用ロボット・工作機械などに幅広く用いられていますが、騒音や振動が大きくなるため、高速回転には適していません。なお、交わるかさ歯車の歯数が同じものをマイタ歯車といい、この場合、ピッチ面は45度になります。マイタには、留め継ぎや合口の意味があります。                                                                                                                                

・まがりばかさ歯車(スパイラルベベルギヤ)

 まがりばかさ歯車は、歯すじが曲線状のかさ歯車であり、英語ではスパイラルベベルギヤと呼ばれます。曲線状の歯がつるまき線状に絡みつくことで、かみ合い率が向上するため、騒音や振動が少なくなります。また、滑らかな伝動によって、歯に対する負担も減少します。なお、歯すじのねじれ方向は互いに逆方向になります。高速運転にも適することから、産業用ロボットや工作機械、電動工具、農機具などに幅広く用いられています。                                                                         

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食い違い軸の歯車

・ウォームギヤ

 ウォームギヤは、円筒形の金属などにねじのような螺旋状の歯が切られているウォームと、これとかみ合うウォームホイールを組み合わせたものであり、大きな減速比を得ることができます。ここで、ウォーム(worm)とは、これがミミズのような細長い虫に似ていることに由来しています。ウォームギヤは小型の装置で速度伝達比を大きくとれるという特長があります。目安として、1/10~1/60くらいの減速比をとることができます。ただ、摩擦が大きいため、効率が低いという短所もあります。
ウォームの進み角が小さくなると摩擦係数の関係で理論的にウォームホイールからウォームを回すことができなくなります。これをセルフロックといい、この性質を逆転防止として利用することもできますが、確実に止める場合には回り止めが必要になります。なお、一般的にウォームギヤとウォームホイールの二軸は90度で用いられます。

・ねじ歯車

 ねじ歯車は、円筒歯車の対を食い違い軸間の運動伝達に利用した歯車です。 はすば歯車どうし又は、はすば歯車と平歯車の組合せで使われます。静かですが、比較的に軽負荷でなければ使えません。                                                                                                                                                                                               

・ハイポイドギヤ

 ハイポイドギヤは、食い違い軸の間に運動を伝達する円すい状の歯車です。この歯車はハイポイドギヤとハイポイドピニオンからなり、それぞれウォームギヤとウォームホイールに相当します。ウォームギヤと同じく、歯数比が大きいため、大きな減速比を得ることができるという特長があります。
 まがりばかさ歯車が転がり作用をもつのに対して、ハイポイドギヤは歯すじ方向への滑りがあるため、騒音や振動をおさえることができます。
 ハイポイドギヤは、米国グリーソン社で開発された直交軸歯車で、主に自動車の後輪駆動用ディファレンシャルギヤとして発達してきた歯車であり、現在でも乗用車やバス、トラックなどに幅広く用いられています。

 

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