8-1)油圧のメカニズム

 油圧を扱う上で、最も基本となる液体の圧力と流量とは、どのような性質をもったものであるのか。油圧とはどの様なメカニズムであるのか。また、油圧を有効に使いこなすためには、圧力と流量の性質とともに、エネルギーの伝達媒体としての流体(作動油)の性質はどのようなものであるのか。

これらの圧力と流量、油圧のメカニズム、そして、作動油の性質について十分に理解する必要があります。

 

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圧力の性質

 液体の圧力はどのように生じ、定義されているのかを説明します。圧力は負荷により生じるので、負荷がなければ発生しません。

 圧力の状態を図に示します。図(a)は断面積Aの水槽に水を水深Hまで入れた状態ですが、水を入れた水槽は床により支えられています。水と床の反力の関係は同図に示したように、床の反力Roは、密度ρ、重力の加速度をgとすると

 Ro = ρ・g・H・A(水の重量)= Pw・A

で表すことができます。Pwは水底の圧力(水圧)ですが、水圧は水深に比例し、容器内の全方向に等しく発生します。

 この水槽に荷重Wの物体(密度は水より大きい)を入れると、図(b)に示すように、容器の底に沈み、容器内の水位が上昇します。この時の床の反力R

   R = Pw・A + W

となりますが、水圧の変化はありません。

 しかし、図(c)に示すように、水槽の水の上にピストンを設けて密封状態を作り、荷重Wをピストンの上に載せると、物体は水中には沈まず、水の水位も変わらないで、水は物体を支えているのです。これは、水には物体を支える力が発生したことであり、この水が荷重によって発生した力(反力)の単位面積あたりの大きさを圧力と呼んでいます。

 ピストンの面積をAm2、物体の重量をW(N)とする圧力Pは、

   P = W/A(N/m2

で表し、単位はパスカル(Pa)です。

 この圧力は、容器の形状に関係なく、密封された容器であれば、容器の中の液体の一部に圧力を加えると流体のすべての部分にそのまま伝わり、同じ大きさの圧力となります。これは、パスカルの原理によるもので、油圧を扱う基本的な考えかたです。

 この時の床の反力R

   R = Pw・A + W = Pw・A + P・A

となりますが、油圧においては、Pwが圧力としては小さいためPwxA<Wとなるので、

   R ≒ P・A

として扱うことが一般的です。

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流量の性質

 流量は容器内(管路内)を移動する(流れる)液体の単位時間あたりの量(容積)です。単位はm3/secやL/minなどで表します。流量は単なる液体の量ではありません。

 図に示す断面積が異なる管路における流れの場合、断面Aと断面Bを考えると、質量保存の法則による連続の方程式から、それぞれの断面を通過する液体の質量MaMbは等しく、非圧縮性流体(力を加えても圧縮しない流体・水など)であれば、流量QaQbは等しくなることから、

  Qa = Qb = Q

となります。

このことは圧力状態が変わっても流量は一定として扱えるので、非常に便利なことです。

 しかし、各断面の流速Vは断面積で変わるので、

    Va = Qa / A = Q / A

    Vb = Qb / B = Q / B

となり、流速は断面積により変わります。

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油圧のメカニズム

 油圧のメカニズムは、エネルギーの伝達媒体としての作動油に発生する圧力と流量の作用により、大きな力が容易に出せる力の増幅、正確な位置制御が出来る非圧縮性の活用、歪曲自在な液体の利用による遠隔操作が出来るなど優れた特長を持っています。

・大きな力が容易に出せる

 油圧はパスカルの原理の応用と言えますが、これについて下図で説明します。

断面積がAm2とBm2の2つの容器を導管で接続すると、断面積Bに載せた荷重Wは断面積Aに加えた力Fとつり合ったとします。

 この時、密封された容器の中の液体の一部に加えた圧力はすべての容器内の液体に同じ大きさで伝わります。容器内の圧力Pは等しいので、

  F / A = W / B = P (N/m2

となります。

このことから、

  F = Wx(A / B) (N)

となるので、A<Bであれば力Fは荷重Wよりも小さい力で荷重を支えられることになり、力の増幅が出来ることを表しています。

 A / B=0.1とすると、加える力Fの10倍の荷重を動かすことが出来ることになり、これが小さな力を加えて大きな力が出せる原理(パスカルの原理)となります。

・正確な位置制御が出来る

 水や油の圧縮率は非常に小さいため、一般的には非圧縮性流体として扱います。物体の質量が大きく圧力が高くなった場合でも、容器の液体の容積は一定と考えるので、ピストン1(断面積A)の動いた距離に応じてピストン2(断面積B)の動いた距離は求めることができます。

すなわち、図においてピストン1の移動による液体の移動量とピストン2の移動による液体の移動する量は同じです。ピストン1およびピストン2の断面積をそれぞれAおよびBとし、ピストンそれぞれの移動する量をSおよびLとすると、

   A x S = B x L (m3

   S = L x(B / A)(m)

   L = S x(A / B)(m)

となります。

 このことから、荷重Wの移動量Lはピストン1の移動量Sで決まるので、ピストン1の移動量を正確に行えば荷重Wの位置制御は確実に行えることになります。これは液体が非圧縮性流体だからです。

 ただ、A<Bであればピストン1の移動量Sは荷重Wの移動量Lより大きくなり、力の増幅とは逆の関係になります。

・遠隔制御が容易に出来る

 液体は固体と異なり、形状は自由であるので、導管により遠隔地への圧力の伝達が可能であり、圧力や流量の制御により下図に示すように、遠隔地における負荷の制御を容易に行うことができます。

・流れによる圧力損失

 液体が管路を流れる場合は、流れ抵抗により圧力損失が生じます。この圧力損失は粘性にも影響を受けるのです。

図に示すように、ピストン1に力(F+ΔF)を加え、動的状態にしてピストン2を持ち上げる場合、ピストン1の下げ移動に応じた液体の移動する量

  Q = S・A / t (tは時間)

があると、導管Cにも流量Qという流れが生じます。

導管の断面積をCとすると、導管内の流速は、

  Vc = Q / C  (m/sec)

となり、流れが層流と考えた場合は、次式に示すように、油の粘性、管路長さ、流速などに影響を受ける圧力損失が発生するのです。

圧力損失ΔP

  ΔP = λ(L/D)・(ρ/2)・Vc2

   λ:管摩擦係数   ρ:流体の密度

   L:管路の長さ   D:管の直径

で求められます。

このため圧力損失を考慮した式は、

 (F + ΔF)/ A - ΔP = W / B

となり

 (F + ΔF)=(W / B + ΔP)x A

となるので、実際の油圧システムにおいては圧力損失を十分に念頭に置かなければなりません。

・連続の方程式

 流体の流れにおいては、流れの断面積が変わっても、流れる量(質量)は一定であるという法則です。

  Q = V x A = 一定

  流量:Q  流速:V  断面積:A

となります。

すなわち、断面積によって流速が変化するということです。

 

層流と乱流

「流れ」の状態には、流れ方向に向かって規則正しく流れる「層流」と、様々な方向に不規則に流れる「乱流」があります。
1883年にイギリスの科学者オズボーン・レイノルズがインクを使って流れの可視化実験を行い、層流と乱流の区別を発見しました。流速が小さいときはインクがほぼ一本線で流れる「層流」、流速が大きいときはインクが途中から乱れて拡散する「乱流」となることが分かりました。

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