
鋳鉄は、C約2.0%以上を含むFe-C系合金ですが、普通の鋳鉄は、C2.0~4.5%,Si 0.5~3.0%,そのほかMnを1%以下,P,Sを0.1%くらい含むことが多くあります。
鋳鉄の一般的用途としては、工作機械、内燃機関、各種産業機械、船舶、自動車、鉄道車両、化学機器、電動機およびバルブ類など多岐にわたって、それぞれの使用目的に適する組織、物理的および機械的性質、およびその他の各特性をもった鋳鉄が広く使用されています。
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鋳鉄の破面と組織
鋳鉄を溶解し、これをくさび形の鋳型に鋳込み冷却後破断して、その破面を肉眼で見ると、白、まだら、灰色の3つの部分ができていることがわかります。これは各部分の冷却速度が異なることによって生じたものです。肉厚の小さな部分は白く、この部分を白鋳鉄(white cast iron)または白銑(white pig iron)といいます。肉の厚い部分は灰色または灰黒色をしているので、この部分をねずみ鋳鉄、灰鋳鉄(gray cast iron)または、ねずみ銑,灰銑(gray pig iron)などといいます。白鋳鉄とねずみ鋳鉄の間の部分ではこの両者が混じり合って、肉眼で斑紋に見える部分があります。この部分をまだら鋳鉄(mottled cast iron)またはまだら銑といいます。ねずみ鋳鉄の部分を顕微鏡で調べてみると、肉の薄い方から順にパーライト鋳鉄(パーライト+黒鉛),軟鋳鉄(パーライト+フェライト+黒鉛),極軟鋳鉄(フェライト+黒鉛)と名付ける3種の組織からなります。ねずみ鋳鉄を顕微鏡で観察すると、黒い片状の黒鉛が見られます。鋳鉄中にはこのような黒鉛が含まれているので、鋳鉄は鋼と異なった多くの特徴を持っています。

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鋳鉄の性質
物理的性質は化学成分のみならず組織の状態で大きく影響するので一定の値として規定することは困難ですが、いくつかの数値に表すと、比重は高炭素鋳鉄7.1~7.2、普通鋳鉄7.1~7.3、白鋳鉄7.6~7.7、熱伝導度は灰鋳鉄で0.11~0.15cal/sec・cm・℃、電気伝導度は比抵抗の数値として灰鋳鉄で30~100μΩ/cm3、また磁気的性質はフェライト量、オーステナイト量などによって著しく変化します。
機械的性質、その他の性質
機械的性質は化学組成や組織によって著しく影響されます。白鋳鉄は硬くてもろく、灰鋳鉄は軟らかい。同じ灰鋳鉄でも、低C、低Siのパーライト組織の多いものは、高C、高Siのフェライト組織の多いものより硬く強度が大きくなります。
引張強さ、圧縮強さ、曲げ強さ
灰鋳鉄の引張強さは、100~500N/mm2くらいで、Sc(炭素飽和度)またはC.E.(炭素当量)が小さいほど強くなりますが、あまりこれらの値が小さくなると白銑化するので、かえって強さは低下します。
圧縮強さは引張強さの3~4倍に達し、鋳鉄は圧縮に対する強度が大きくなります。鋳鉄は一般にもろいので引張試験で正確に伸びの値を求めることが困難であるので、たわみ(曲げ強さ)を求めて粘りを判定することがあります。
耐摩耗性
鋳鉄の耐摩耗性は一般に良好です。組織中の黒鉛が潤滑作用となり、また油の溜まりの役目をし、かつ比較的熱伝導性もよいからです。微細黒鉛の分布したもの、パーライト組織のもの、ベイナイト組織のもの、あるいはステダイト組織の現れたものなど耐摩耗性がよいといわれています。
切削性
鋼に比べて切削性は一般に優れています。黒鉛が出ていて基地がフェライトまたはパーライト組織のものが切削性がよく、Cr、Mnなどが多く含まれて遊離セメンタイトの出ているものはこれを硬点(hard spot)といい切削性が悪くなります。
成長
高温時にA1変態点付近で加熱と冷却を繰返すと、容積が次第に膨張します。これを成長といいます。白銑より灰銑に起きやすく、パーライト中のセメンタイトの黒鉛化、A1変態点の上下における体積変化の繰返しによる微細クラック発生による膨張などによります。低C、低Siにすること、セメンタイトを安定化する元素Cr、Mn、Mo、その他Niなどの添加により成長を防ぐことができます。成長は鋳鉄の耐熱性と大きな関連があり、鋳鉄の耐熱性の向上の1つは、成長を防ぐことです。
減衰能
灰銑は振動を吸収しやすい性質をもちます。白銑ではこの性質は少なく、この振動を吸収しやすい性質を減衰能といいます。組織中の黒鉛が振動エネルギーを吸収し低下させるからです。鋼に比べ灰銑の方が振動を大きく吸収しやすくなります。
耐食性
一般に鋼に比べて地中、水中および海水中での耐食性は良くなります。Cu、Ni、Cr、Siなどの添加は耐食性を向上させます。これらの元素を適量添加したものを耐食鋳鉄といいます。
鋳鉄の種類
化学成分、熱処理、溶湯処理などの差に基づく、組織、機械的性質およびその他の性質の変化から、普通鋳鉄(強靭鋳鉄を含む)、球状黒鉛鋳鉄、可鍛鋳鉄、合金鋳鉄などに分類することができます。
普通鋳鉄
特殊元素を配合しない鋳鉄を普通鋳鉄といい、C3.0~3.8%、Si1.0~2.5%、Mn0.4~1.0%、P0.3~1.0%、S0.6~1.3%位が代表的組成で、黒鉛は片状の分布をしたねずみ鋳鉄です。
下表は、JIS規格に規定する灰鋳鉄品を示します。
種類の記号 | 引張強さ [N/mm2] | 硬さ [HB] |
---|---|---|
FC100 | 100 以上 | 201 以下 |
FC150 | 150 以上 | 212 以下 |
FC200 | 200 以上 | 223 以下 |
FC250 | 250 以上 | 241 以下 |
FC300 | 300 以上 | 262 以下 |
FC350 | 350 以上 | 277 以下 |
FC100より高級になるにつれて、漸次黒鉛は細かく分布して、緻密強力になります。FC300以上を一般に強靭鋳鉄(高級鋳鉄)といいます。強靭鋳鉄はC2.7~3.0%、Si1.0~1.6%位の微細片状黒鉛の分布したパーライト基地の鋳鉄で、高温溶解して鋼くずを混ぜてC、Siを低くし、鋳造前に溶湯中に接種作用を行ったものです。
高温溶解と種々の接種剤(例えばCa-Si、Fe-Si、Si-Cr、Si-Mn-Zrなど)の添加、あるいは溶解方法の改良などによって、いわゆるミーハナイト鋳鉄およびその他の接種処理の強靭鋳鉄が多く開発されています。
球状黒鉛鋳鉄
普通の鋳造方法ならば片状黒鉛になるべき化学組成の溶湯、特に低S(<0.02%)、低P(<0.2%)の溶湯中にCe、あるいはMg(またはMg合金)を添加することにより球状の黒鉛が晶出します。これを球状黒鉛鋳鉄または靭性鋳鉄などといいます。その組織は、パーライト基地中にフェライトで囲まれた球状黒鉛の分布した状態です。またC、Siなどの化学組成の調節や熱処理によってフェライト基地のみの球状黒鉛鋳鉄も可能です。しかし球状黒鉛鋳鉄ではSなどのほかにSb、As、Bi、Pbなどが微量含まれると球状の黒鉛が晶出しにくいといわれます。
球状黒鉛鋳鉄は、普通鋳鉄に比べて高い引張強さと比較的大きい靭性を示し、かつ良好な切削性と耐摩耗性を有し、耐成長性にも優れています。しかし湯流れがやや悪く凝固のときの縮み代は普通鋳鉄より大きくなります。
球状黒鉛鋳鉄はCeやMgのほかにLaやCaなどを添加することによって得られることが開発され実施されています。
可鍛鋳鉄
白銑鋳物を熱処理して延性を与えたもので、破面の色調により黒心可鍛鋳鉄(black heart malleable cast iron)と白心可鍛鋳鉄(white heart malleable cast iron)とに大別できます。いずれも熱処理前は白銑であるから低C、低Siになります。
黒心可鍛鋳鉄
白銑を加熱してセメンタイトを分解して黒鉛化する方法で、第1段、第2段の熱処理によります。第1段黒鉛化は、850~950℃に長時間加熱して、遊離セメンタイト(レデブライト中のセメンタイト)を分解し、第2段黒鉛化はA1変態温度付近の加熱によって共析セメンタイト(パーライト)を分解して塊状黒鉛とします。最終組織はフェライト基地中に塊状黒鉛が分布したものになります。このようにして生成した黒鉛をテンパーカーボン(temper graphite)といいます。黒心可鍛鋳鉄は、普通鋳鉄に比べて粘り強く、大きな角度に曲げても容易に折れにくくなります。また第1段黒鉛化処理のみで第2段黒鉛化を行わない場合はパーライト基地中にテンパーカーボンの分布した組織となり、これをパーライト可鍛鋳鉄といい、粘り強さはやや劣りますが強度は大きくなります。また白銑の黒鉛化熱処理には、Cr、V、Mnなどの含有が黒鉛化を著しく阻害します。
可鍛鋳鉄鋳物を溶融亜鉛中で浸漬めっきした時にこれがもろくなることがあります。これをめっきぜい性といい、600~700℃に再加熱してのち空冷して防ぐことができます。
白心可鍛鋳鉄
白銑を酸化剤または酸化物とともに箱につめ900~1000℃に長時間加熱すると表面から順次セメンタイトが酸素と反応して脱炭し、基地がパーライトとなったものです。したがって周縁部はフェライト、内部はパーライト、心部はテンパーカーボンとなっている場合が多くあります。白心可鍛鋳鉄は表面から脱炭するので肉厚があまり厚いもの、たとえば5mm以上には不適当となります。また酸化物の代わりにCO2、水蒸気を炉内に送って脱炭させることもあります。
合金鋳鉄
鋳鉄にある元素を加えて組織を改良し、機械的性質、耐食性、耐摩耗性、耐熱性などを向上させるとき、これらの鋳鉄を合金鋳鉄(alloyed cast iron)または特殊鋳鉄といい、添加する元素の例としては、Al、Cu、Ni、Si、Mn、Mo、Cr、Vなどがあります。
チルド鋳鉄
成分を選んで鋳込みのとき必要な面に金型を当てておくと、それに接した部分が白銑化され、内部または金型を当てない部分が灰銑となった鋳物です。金型によって急冷(チル)された部分は表面から内部へ白銑、まだら銑、灰銑という順序の組織となり、耐摩耗性に富むので圧延用ロール、車両などに用いられます。
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