1-3)静的強度

母材の引張試験

 引張試験は金属材料に限らず、材料の強度特性を評価する最も基礎的な試験です。

下図が鉄鋼材料の引張試験で得られる公称応力ー公称ひずみ線図の模式図です。

負荷初期に現れる直線部分の 応力(σ)ひずみ(ε)の関係が

式 σ = E ・ ε  (フックの法則)

で表される弾性変形となり、その勾配がヤング率(縦弾性係数 E)に対応しています。

ある程度応力が高くなると、試験片は弾性状態を維持できなくなり、塑性変形を生じます。弾性状態では応力を取り去ると変形が無くなりますが、塑性変形をすると応力を取り去ってもひずみが残留する永久変形となってしまいます。

塑性変形を生じ始める応力を降伏応力あるいは降伏点と呼び、σYと表します。

軟鋼の場合は、塑性降伏は上部降伏点(図中 A点 σYU)で開始した後、応力は下部降伏点(図中 B点 σYL)まで低下します。B-B’ 間では、ほぼ一定の応力塑性変形が進みます。

B-B’ 間で生じるひずみは塑性変形を開始した領域が試験片平行部全域に拡大していく状況に対応しており、降伏伸びと呼ばれています。塑性変形を開始した領域が試験片平行部全面を覆うと、変形の進行とともに応力が増加する、いわゆる加工硬化ひずみ硬化とも呼ばれる)が始まります。

降伏点を超える変形段階、例えば図中のC点から応力を取り去ると、応力は0A線に平行なCD線に沿って低下し、応力がゼロになっても永久ひずみ(ε)が残ります。これを塑性ひずみと言います。したがって、C点でのひずみεは弾性ひずみεeと塑性ひずみεpの和となっています。再び負荷を開始すると、応力はDC線に沿って直線的に上昇して、C点から新たな塑性変形を生じます。すなわち、C点が塑性ひずみ0Dを与えた後の降伏応力となり、初期の降伏応力から大きくなることになります。

 最大荷重点(図中のF点)に到達したときの応力を引張強さと呼び、σと表します。最大荷重点に到達すると試験片平行部の一部のみが絞られるように収縮し、それ以外の部分は変形しません。この現象をくびれと言います。くびれが発生すると荷重は低下を始め、やがてH点で破断します。

引張強さから破断まで応力が低下する理由は、定義した応力が試験片の初期断面を用いた公称応力のためで、くびれによる断面積の大きな減少を反映できていないためです。これに対して、引張変形により刻々と減少する試験片実断面積で荷重を除した真応力で表すと、くびれ後も真応力は上昇し破断に至ることになります。

 くびれを生じるまでの塑性伸びを均一伸びあるいは一様伸び、破断時の塑性伸びを破断伸びと呼び、材料の延性の指標とします。

丸棒試験片の場合、

φ = (A0 - Af)/ A0 x 100(%)

 A0 : 試験前の試験片断面積

 A:破断後の断面積

で表す特性も延性の指標に用いられ、絞りあるいは断面減少率φ(ファイ)と呼び、百分率で表します。

 鋼でも高張力鋼(主に焼入焼戻し鋼)の場合や、非鉄金属の場合には、明瞭な降伏現象を示しません。この場合、一般に0.2%の永久変形が残留する応力を降伏応力の代用とします。

この応力を0.2%耐力(永久ひずみが0.5%の場合には0.5%耐力)と呼びます。

 降伏応力(または耐力)を引張強さで割った値を降伏比と呼びます。一般に高張力鋼の降伏比は軟鋼に比べて高くなります。また、降伏比が高い材料ほど均一伸びが小さくなる傾向にあります。

 引張試験で得られる材料の特性値を機械的性質と呼びますが、なかでも降伏応力(または耐力)、引張強さおよび破断伸びの3つの値は重要な特性となります。例えば、降伏応力や引張強さは、この材料を使用した構造物の許容応力を決める基準値となります。

通常、引張試験は室温において非常にゆっくりとしたひずみ速度(10-2~10-3/sec)の下で実施されます。低温や高いひずみ速度の条件下で引張試験を実施すると、機械的性質は変化します。鋼の場合は、降伏応力(耐力)の上昇が顕著になります。

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引張試験における破壊形態(延性破壊)

 延性の高い金属材料の丸棒引張試験では、巨視的破壊形態となることが多く、大きな伸びと断面収縮を伴って破断します。このような破壊形態を延性破壊と呼びます。

この破面は目視では鈍い光沢の凹凸のある模様ですが、試験片中心部の引張軸に垂直な粗い破面と、それを取り囲むように引張軸とほぼ45°の角度をなす傾斜破面から構成されます。前者は繊維状破面、後者はせん断破面(シアリップ)で、こうした巨視的様相をカップアンドコーンと呼びます。

試験片くびれ部の内部では、最終破断前に微小な空洞(ボイド)を発生しています。くびれ部の内部に生成した微小な空洞は変形とともに成長・合体し、試験片の破断に至ります。電子顕微鏡で破面を拡大して観察すると、空洞の痕跡、ディンプルが観察されます。

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溶接継手の静的強度

 母材の引張強さに対する継手の引張強さの比率を継手効率と呼びます。軟鋼や低合金鋼の突合せ継手では、一般に母材強度より50~100MPa強度の高い溶接金属の組み合わせが選ばれます。こうした継手をオーバーマッチ継手と呼びます。

オーバーマッチ継手に引張負荷を行うと、余盛を削り母材厚と同厚にした場合であっても、母材において塑性降伏が先行し母材破断となります。そのため、継手の引張強度は母材の引張強さと等しく、継手効率は100%となります。しかし、溶け込み不良や割れ、アンダカットやスラグ巻込みなど、継手断面内に溶接欠陥が多い場合には継手効率が100%以下となる場合があります。破断面積内に占める各種溶接欠陥の面積率を欠陥率(欠陥度)と呼びます。溶接欠陥の存在により伸びはやや低下しますが、引張強さは数%程度の欠陥率ではほとんど低下することはありません。

 溶接金属の強度が母材よりも低い継手をアンダマッチ継手と呼びます。アンダマッチ継手が力を受けると、軟質部で塑性変形が先行しますが、周囲の高強度母材部分で塑性変形(断面収縮)が拘束され、軟質部単独の場合のように自由に変形はできません。したがって、アンダマッチ継手の場合であっても、溶接金属や熱影響部に生じた軟質部の幅が小さい場合には、継手強度は軟質部単独の強度までには低下はしません。母材より強度の低い溶接材料を使用すると溶接割れ防止の観点から有利であるため、意図的にアンダマッチ継手とすることがあります。

 溶接継手は溶接したままの状態では残留応力を有します。特に溶接ビード近傍の溶接線方向では引張残留応力が降伏強度レベルに到達することがあります。溶接残留応力は溶接時の熱により生じた局所的な塑性変形に起因します。こうした継手が引張負荷により塑性化すると、断面的に局在化していた塑性変形が均一化し残留応力は消滅します。そのため、溶接残留応力は引張強さに影響は与えません

 

曲げ試験、硬さ試験

曲げ試験

 板状試験片を規定半径の金具で規定角度まで曲げる試験を曲げ試験と呼びます。これは材料の延性を調べる試験です。

溶接継手に対して曲げ試験を行うと、曲げ部引張側表面下に存在する溶接欠陥(ブローホールやスラグ巻込みなど)が露出しやすく、その存在を調べることができます。

硬さ試験

 材料の硬さを測る試験として、ビッカース硬さ試験、ブリネル硬さ試験などがあります。

ビッカース硬さ試験ではピラミッド型のダイアモンド圧子を、ブリネル硬さ試験では鋼球圧子を規定荷重で被測定物表面に押し当て、荷重を圧痕の表面積で除した値から硬さを求めるますが、一般には無次元量としてそれぞれ硬さHVやHBとして表します。圧痕は塑性変形により生じたものであるため、硬さは材料の降伏応力や引張強さと対応関係があり、経験的に次式の関係が知られています。

σB = (10/ 3)x HV (MPa)

この式を用いると、供用中の構造物に使用されている材料の強度を硬さ測定により非破壊的に推定することが可能です。

 

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