3-6)溶接変形の防止と矯正

溶接変形は、構造物の組立において精度管理の点から工作上重大な障害になるばかりか、その性能を損なう場合もあります。

 また、溶接変形の防止と溶接残留応力の軽減とは相反することが多く、両者を両立させることは困難ですが、溶接残留応力に関しては、溶接後熱処理等による事後処理等で対応するのが一般的です。したがって、溶接変形をできるだけ小さくする施工要領と、変形を生じた場合の適切な矯正方法が製品の品質にとって重要な事項となります。

 

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溶接変形の防止対策

 発生した溶接変形の矯正は困難で、経験に依存するところも多く、多大の労力と時間を要します。設計段階から構造、継手、開先などの溶接設計や製作要領を検討して、変形が許容範囲以下になるように努めなければなりません。

設計段階での変形防止対策には、次のような配慮が必要です。

 ①溶接継手数、溶接長の低減、板厚の減少。

 ②脚長サイズの減少、開先形状の変更(開先断面積の減少、表裏開先形状のバランス化)。

 ③連続すみ肉溶接から断続すみ肉への変更。

 ④拘束の強化(拘束できるような補強材や補剛材の配置)。

 ⑤変形が少なくなるような継手の配置。

また、施工段階での変形防止対策には、以下の項目があります。

 ①保管時、運搬時の素材の変形防止。

 ②切断時の変形防止(切断変形、ひずみの発生の少ない切断方法の適用)。

 ③個々の部材の寸法精度向上。

 ④開先精度の向上(ベベル角度、ルート面精度の向上)。

 ⑤タック溶接時の組立精度の向上(ルート間隙の精度向上)。

 ⑥逆ひずみ法の適用。

 ⑦単位溶接金属当たりの入熱量の少ない(比溶着熱の小さい)溶接法の選定(例えば、被覆アーク溶接よりもマグ溶接の方が少ない)。

 ⑧ひずみ防止治具による拘束。

 ⑨変形が少なくなるような組立順序、溶着順序、溶接順序の採用。

 ⑩規定を超える過大脚長や過大余盛をつけないように溶接する。

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溶接変形の矯正方法

 変形が許容範囲を超えた場合には、溶接終了後に許容範囲に収まるように矯正します。矯正の方法には「機械的方法」と「熱的方法」があります。

 溶接変形が生じるのは、溶接部が局所的に縮むことに原因があります。したがって、それを直すには縮んだ箇所を伸ばすか、たるんでいるところを縮めるのが原則です。「機械的方法」は前者に、「熱的方法」は後者に属します。

機械的矯正方法

 溶接によって変形が生じた部分(溶接部およびその近傍)を冷間塑性加工により伸ばす矯正方法で、ローラー、プレスなどの機械的矯正装置が用いられます。

装置の大きさ、能力により適用できる部材の大きさや形状に制約があったり、立体構造部材や複雑な形状の部材には適用が困難です。

矯正能力、矯正精度が良いという長所がある一方、過度の矯正は溶接部に損傷を与えることがあります。

熱的矯正法

 溶接によって変形した近傍の母材(たるんでいるところまたはのびたところ)を局部加熱、冷却して、収縮させ矯正する方法です。

加熱熱源には一般的にガス炎が用いられます。加熱後の冷却では、加熱直後に水冷すると効果が大きくなります。この作業(一般的にはひずみ取りと呼ばれている作業)は、経験や熟練を要する上に、加熱、急冷により材質が変化することがあるので、作業者の選定や施工管理に注意しなければなりません。また、収縮によって部材全体の寸法が短くなることがあるので注意が必要です。

 最高加熱温度は、低炭素鋼や非調質高張力鋼の場合で約900℃、調質高張力鋼の場合には550℃(または焼戻し温度以下)とし、それ以上の温度に加熱してはいけません。水冷をともなう局部加熱法を高張力鋼に対して適用する場合は水冷開始温度を650℃以下にしないと焼入れ硬化して、切欠きじん性の劣化を生じてしまいます。したがって、高張力鋼のように焼入れ硬化性の大きい鋼材に対しては、水冷をともなう矯正は避け、空冷のみにする方が品質上安全です。最高加熱温度については種々の規定があります。たとえば、AWS規格では調質鋼で600℃以下、それ以外の鋼で650℃以下の規定となります。事前に適用規格について調査しておくことが重要です。

 

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