2-4)鋼の表面処理

 金属の表面に特別の処理をほどこして、表面硬さ、耐摩耗性、耐食性、耐熱性そのほかの性質を改善する方法を表面処理(surface treatment)といいます。広い意味でいえば、切削、研摩、洗浄、めっき、塗装、ライニングなども表面処理ですが、ここでは主に表面硬化法(surface hardening)について説明します。

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表面焼入れ

高周波焼入れ

 鋼の表面付近を加熱して、オーステナイト化し、これを急冷すれば鋼の表面はマルテンサイト化されて硬くなります。高周波焼入れ(induction hardening)は、1回巻または数回巻のコイル(誘導子inductor)に高周波電流を流すと鋼材表面は加熱されます。冷却方法も種々あり、コイルの中が中空になっていて、冷却水がその中を通り、コイルに多数あけられた小さな穴から水が噴出して焼入れをする方法もあります。

 高周波電源の周波数は数kc~数Mcで、一般に周波数の大きいものは薄い硬化層を得るため、または小物用に適し、周波数の小さなものは厚い硬化層を与えるのに、または大物用、溶解用に適しています。

 高周波焼入用の材料としては、表面硬さが十分に上がり、しかも焼割れを起こしにくいものが適しています。普通は0.4~0.45%Cくらいの炭素鋼または低合金鋼が用いられます。また、鋳鉄製の機械部品にも適用されますが、この場合には黒鉛の形、分布および大きさが適当なものでなければなりません。

 高周波焼入れした鋼の表面硬さは、その鋼を普通に焼入れしたものに比べてかなり高く(HRCで1~2)なります。それは急速短時間加熱のため焼入組織は微細で不均質であることや、高周波焼入れの場合に発生する大きな内部応力が原因であると考えられています。しかし普通の焼入れをしたものに比べると焼もどし軟化抵抗は小さくなります。つまり焼入れをしたものを再加熱した場合、普通の焼入れをしたものに比べて硬さ低下が著しくなるということです。

 高周波焼入れは表面硬さを上げ耐摩耗性を向上させるだけでなく、耐疲労性を改善させるためにも著しい効果があります。それは高周波焼入れによって表面に残留圧縮応力が生じるためです。

火炎焼入れ

 鋼表面を加熱する手段として酸素アセチレンなどの炎を利用する方法を火炎焼入れ(flame hardening)といいます。加熱用の炎と冷却用の噴水流とが連動して動くようになっており、高周波焼入れに比べ設備費が安いが、加熱温度の調節はやや難しくなります。急速加熱焼入れなので、焼入れの効果、焼入用鋼などについては、だいたいにおいて高周波焼入れと同様と考えられます。

電解焼入れ

 製品を電解液中(10%Na2CO3など)に吊るし、これを陰極として、これと陽極板との間に直流(電圧は200Vまで、電流密度は4A/㎝2以上)を流すと、その製品の表面は発生するH2や水蒸気におおわれ、この部分にアーク放電を生じ製品表面は急熱されます。加熱が終わって電流を切ると放電は消え製品は電解液によって急冷されます。

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浸炭

 低炭素鋼を浸炭剤中で加熱し、鋼表面から炭素Cを浸透させ、その表面付近のC濃度を高める方法を浸炭(carburizing)といいます。浸炭された品物を高温度のオーステナイト状態から急冷すると鋼表面はマルテンサイト化されて硬化しますが内部は低炭素のままなので硬化せず粘り強さを保持します。浸炭剤としては、固体、液体、ガスいずれも利用されます。

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窒化

 鋼表面に窒素を浸透させることによって表面を硬化する方法を窒化(nitriding)といいます。焼入焼もどしをして適当な機械的性質を与えて、それから窒化をします。窒化温度は500~550℃で、マルテンサイト化による硬化でないため、浸炭焼入れの場合のように高い温度に加熱することも、その温度から急冷することも必要ありません。そのため、ひずみも少なく、表面硬さが高く、疲労強度も高く、また500℃くらいまで加熱されても硬さはあまり下がりません。窒化の方法には、ガス窒化と液体窒化があります。

 

そのほかの表面処理

浸硫(sulfurizing)

 鉄表面に硫化鉄を生成させ、その表面の摩擦係数を減らし、それによって耐摩耗性を向上させる方法です。塩浴による方法が多く行われていますが、気体や固体による方法もあります。一例を示すと塩浴法では、NaCl,BaCl2,CaCl2を主成分として、これに FeS,NaSO4,K4Fe(CN)6,Na2S などを加えたものです。気体による方法ではおもに H2Sを、また固体による方法では FeS,黒鉛,NH4Clなどを混合して使用します。

硬質クロムめっき

 特別の条件でクロムめっきをすると、厚さ7~20μm、硬さはHVで600~1100のめっき層ができます。ただし、普通のクロムめっきでは、Cu,Niを下地として、その上にクロムめっきをしますが、硬質クロムめっき(hard chromium plating)では下地処理をしないで直接クロムめっきをします。

Hard facing

 高炭素高クロム鋼(1%C,13%Cr,0.5%Mo)、高マンガン鋼(1.1%C,1.13%Mn)、Co-Cr-W合金(ステライトという。40%Co,30%Cr,20%W,0.6~2.6%C)などを溶着させて硬い表面にする方法です。

PVD法による硬質厚膜の蒸着

 工具鋼などに硬いTiCとかTiN層を物理的に形成させるPVD(Physical Vapor Deposition)法が実用化されるようになって、工具鋼の耐摩耗性向上や焼付防止に注目されています。この方法は真空系内で電子ビーム蒸発源から金属、たとえばTiを蒸発させ、反応ガスたとえばC2H2を微量真空系内に導入することによって、少し離れた下地面上にTiCを化成蒸着させる方法です。さらにまた2つの電子ビーム蒸発源を用いて、一方から金属酸化物を、他方から金属を蒸発速度を適当に制御しながら蒸発させることによって、下地面上に分散強化型の厚膜を生成させることもできます。

表面軟化法

 近年、コンクリートの壁などに火薬の爆発を利用してくぎを打ち込むことが行われています。このくぎは鋼(中または高炭素鋼)の表面を意識的に脱炭させて、焼入れしたものです。くぎの中心部は焼入硬化されて、強さが大きくなりますが、周辺部はフェライトになっているため軟質なので、くぎも折れず、コンクリートも傷みません。脱炭は水分を含んだH2などの雰囲気ガス中で行われます。ほうろう用の鉄板を前もって脱炭しておくと、ほうろうのつきがよいので、表面軟化法が利用されています。

光輝加熱、無酸化加熱

 鋼を空気中で加熱すると、酸化や脱炭が起こり、表面を損じたり、鋼表面が脱炭されて(表面の)焼入硬さが十分に上がらないことがあります。品物を加熱冷却したのち炉から取り出してみた場合、品物が光っているような加熱方法を光輝加熱といいます。その目的により、光輝加熱、光輝焼なまし、光輝焼入れ、無酸化焼入れなどといいます。ただし、光輝加熱であるからといって、脱炭や浸炭されていないと考えてはいけません。

 光輝または無酸化加熱の方法としては、下記の各種方法があります。

 1)パック法(木炭、ダライ粉、コークス、砂などと箱につめて加熱する)

 2)メタルバス(Pb、はんだなどを加熱溶融し、この中で加熱する)

 3)ソルトバス(BaCl2、NaClなどの中性塩類を加熱溶融し、この中で加熱する)

 4)不活性ガス加熱(Ar、He中で加熱する)

 5)炉気加熱(吸熱形発熱形のガス、アンモニア変成ガスなどの中で加熱する)

 6)真空加熱(10-3~10-5mmHgの真空中で加熱する)

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